チケット売り場で3日券を買った。その場で顔写真を撮り、パウチされたチケットを渡された。値段は40ドル、高いのか安いのかわからないが、現地の人が気軽に買える値段ではなさそうだ。
長い、まっすぐな道をバイタクは走る。
木々が生い茂り猿が我が物顔で歩き回っている道を抜けると、お堀のような所にでた。
あれがアンコール・ワットだよ、ドライバーがお堀の向こう側に見える遺跡を指差した。想像以上に大きく、広い遺跡だった。土産物屋が立ち並ぶ駐車場スペースに出るとバイクが停まった。
さすがに世界的に有名な場所だけあって、あたりは観光客でいっぱいだった。
ドライバーは、自分はここで待っているから中に入って見てこいと言う。1時間じゃすまなさそうな広さだ。私が中にいる間他の客を探したりしたいだろうと思って、「普通見るのにどれくらいかかる?」と聞いても「あなたの気の済むまで見てこい」との返答。1日雇われたら他の仕事はする気がないのかもしれない。きっと待つ事も彼らの仕事なのだろう。
じゃあ2〜3時間で帰ってくるから、と告げ歩き出す。ふと、見終わって出てきた時に、この人ごみの中で彼を見つける事ができるのだろうかという一抹の不安がよぎる。顔をもう一度見ておこうと振り返ってみたが、そこには彼の姿は既になかった。
遺跡の入り口まで、お堀の上にかけられた道をまっすぐ歩く。けっこう長い。大きな石を切り出して作られたその石畳は、何百年も前に作られ、そして人々がそこを歩いたのであろうという事を物語っていた。
相変わらず人は多く、その姿も様々だった。
私のようなバックパッカー、日本人や韓国人のツアー団体客、そして中にはお坊さんを先頭に歩く裸足の集団も。タイなどからお寺参り(?)にやって来たようで、要所要所でお坊さんが何やら説明をしていた。
そういう人たちにまぎれて歩いていると、片言の日本語で声をかけられた。
赤い袈裟を着た、若いお坊さんだった。
日本語を勉強しているという彼は、こうやって日本人を見かけると話しかけて会話の練習をしていると言った。さすがにお坊さんは勤勉だなぁと感心しながら、しばらく彼と一緒に歩いて見て回った。
話すうちに、この彼は先ほどの裸足の集団をお世話しているという事がわかった。タイからやってきたこのお坊さんと、何かしら宗教的なつながりがあるようだったが、詳しい事はよくわからなかった。きっとこのメコン川周辺の国の歴史とかを知っていれば、もっと彼の話が理解できたのだろう。
途中、彼らの集団が座り込みお坊さんの説法が始まったようだったので、ここで別れた。最初は入り口が一つで込み合っていたが、だんだんと人が分散し遺跡をじっくり見ることができるようになってきた。
遺跡は、石を切り出し、細かい細工をしたものが使われているのだが、あまりの細かさとその大きさには、ため息しか出なかった。
手先の器用さでは日本人が一番だろう、なんて勝手に思っていたが、このアンコールワットの遺跡を見ると、ここに住む人たちは手先の器用さだけではなく、それをかなり広い範囲に渡って施すことを可能にした技術や統制があったのだと思わざるを得ない。
芸術の何を知る訳ではないが、デザインや色彩以外にも、作品の大きさというのも人を圧倒するためのテクニックだと思う。まさに、このアンコール・ワットはそれだった。その細かく美しい彫刻もスバラシイのだが、それをここまで広範囲で見せられると、うわっ、と圧倒され、息をのんでしまう。
写真のような彫刻が建物の壁一面に施され、また、きれいに削りだされた同じ形の石柱が何百本も並んでいた。中には風化してはっきりとその彫刻が残っていない部分も多々あったが、もともとは細かい細工がされていたことは明らかだった。
宗教や歴史についてまったくの勉強不足の私だったが、それらを知らずともこの巨大な芸術作品は十分に楽しめるものであった。
途中座り込んで休みがてら眺めたりして、ようやく中を一周して外に出てきた時には3時間は経っていた。バイタクのドライバーは私がこの時間に来る事を知っていたかのように、入り口で待っていた。
アンコールの遺跡はこれだけではない。
アンコール・ワット、アンコール・トム、バンテアイ・スレイなど、有名どころ以外にも小さめの寺院などがあちこちに散らばっている。
すぐにバイタクにまたがり、アンコール・トムへと行く。
アンコール・ワットは一つの大きな寺院だったが、アンコール・トムは敷地の中に寺院や王宮が建ち並ぶ。(アンコール・トムとは「大きな町」という意味で、実際には城壁のことをさすらしい)
このアンコール・トムの中にはバイヨンという有名な寺院がある。
塔の屋根の部分に大きな顔の彫刻が施されている写真を、見た事のある人も多いだろう。
やはり大きいというのはそれだけですごい。
遠目で全体像を見た時も感動したが、中に入り間近でその顔に対面した時は思わず腕を組み口を開けたまましばらくの間ぽかんと眺めてしまった。
アンコールは、まさに巨大なオープンエアの美術館だった。
まだまだアンコールの感動体験が続く予定です。
独りよがりとわかっていても、書かずにはいられないスバラシサ。