薄暗い船の上で数十分すごし、ようやく帰りのボートが戻ってきた。
パーティーは完全にお開き、従業員も一緒に帰路につく。
時折マイク達と話したり、ぼーっと暗闇の水面を眺めながら、ボートはだんだんシェムリアプの町に近づいてゆく。
そこで、ふと思い出す。
船を降りたら、次はオンボロのバンに乗って宿まで戻るんだ。
嫌な予感がする。
こういった状況での嫌な予感はだいたい当たる
。
バンに乗り込む私にマイク達は、「オレ達は自分の車で帰るから」とさよならの握手をしてきた。バンの中には先ほど船上で働いていた若いカンボジア人の男の子、女の子がぎっしり乗っている。
その真ん中にぽいっと放り込まれ、緊張でやけに姿勢良く座っている私は完全に浮いていた。周りのカンボジア人も、何もしゃべりはしないが明らかにこちらを気にしている。
車内はなんだか異様な雰囲気に包まれていた。
年が変わった早々に、この緊張感はいったいなんなんだ。
この車は本当に私を無事に宿まで送り届けてくれるのか。
周りのカンボジア人達は、信用できるのか。
いろいろな妄想が頭を駆け回り、シーンとした車内の空気の重圧は更に追い打ちをかけた。
何かしゃべらなければ。
話題を必死で探していると、突然となりに座っていた女の子が話しかけてきた。しかも日本語で。
たどたどしい日本語ではあったが、十分会話はできた。
英語も交えながら、よくある「旅人と現地の人の会話」をした。
周りのカンボジア人も、話には加わらないがにこにこしながら興味津々といった感じでこちらを見ていた。
あっ、と思った。
多分、その女の子は日本語ができるから私の横に座ったのだ。
そして、勇気を振り絞って私に話しかけてきたのではないか。
これは私の勝手な想像だが、彼らはとてもシャイなのだと思う。
外国人にとても興味があるけど、自分からはなかなか話しかけられないのだ。
お金を稼ぐ為外国人に積極的に話しかけなければならない観光地の土産物売りやツクツクドライバーとはちょっと違う。むしろ、このシャイな姿の方がカンボジア人の本来の姿なのではないか。
ようやくそう気づいた時には、もうさよならをしなければならなかった。
バンはところどころで停まり、一人、二人と降りていった。宿に着いた頃にはぎゅうぎゅうだった車内は3分の1ほどになっていた。
ありがとう!サンキュー!
車を降り、何度もお礼を言って走り去る車に手を振った。
年明けそうそう、なんとも不思議な体験だった。
あのへんてこな空気の中、最終的には少しカンボジアを理解できたような、できてないような。
静かにドミトリーの部屋のドアを開ける。
すでにタラはベッドですやすや寝ていた。
ちょっと寝たら、初日の出を見にアンコールワットだ。
少し、わくわくしてきた。